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まず、この作品を観るにあたっては、「仁義なき戦い」のような凄みとかを期待してはいけない。たけしにはたけしの映画しか撮れないという当たり前のことを確認しておく必要がある。では、「たけし映画」とは何か。
真っ先に思い浮かぶのは「暴力」だが、それよりも特徴的なのが、
なんだか情けねえなあ
なんだか悲しいよなあ
なんだか切ねえよなあ
あるいは、それらが全て交じり合ってうまく言葉で表現できないときについ口から出てしまう、(なんだかなあ)な感覚。
例えば、家族恋人が死ねば、それは明らかに悲しい。
あるいは、友達のために何かしらと戦って勝つと、それは明らかに感動的である。
しかし私たちは、そういうわかりやすくドラマチックな出来事を、そんなに多くは体験したりしない。
それよりも、仲間だと思ってた奴にうまいこと出し抜かれたような気がするけどなんか面と向かって言えねえなあとか、ちょっと良いことがあったと思ったらすぐに損してプラマイゼロ、どちらかというとマイナスになったりして(なんだかなあ)とか。私たちの生活には、そういう言葉で的確に表現しにくい微妙な体験が圧倒的に多い(「いやそれ、お前だけでしょ」とかいうツッコミは断じてナシの方向で)。
家族恋人が死ぬ映画を観た後、(ああ、主人公に比べて自分は幸せなのかもしれない)とか、
友達のために戦う映画を観た後、(ああ、自分もあんな風に生きられたらなあ)とか。
そして(まあでも映画は映画だよなあ)と自分なりに現実とのギャップを整理するメンドくささ。
そういう(なんだかなあ)な人生を送る人にとって、たけしの(なんだかなあ)な映画は、非常にリアルに感じられるはず。
なのですが、問題は、たけし特有の(なんだかなあ)な場面の切り取り方の鋭さ。それが鋭すぎて、よせばいいのになんだかしょうもない自己批評映画を撮っちゃって、その作品の外にいる監督たけし自身を(なんだかなあ)な状態にしていたのが、最近でいうと「監督ばんざい」だった。
アウトレイジではその切れ味を抑えて、(なんだかなあ)を登場人物の生き様にうまく集約した。いわゆる「たけし組」と呼ばれる常連の役者を排することがたけしの「甘え」を封じる方向に作用し、同時に豪華なキャスティングによって作品の華を増す方向にも作用した。
結果、ごくまっとうなエンターテイメント作品ができあがった。
予告編を観た段階では、普段ヤクザ役に縁がなさそうな俳優たちが無理に怒鳴り合っちゃってどうも迫力不足なのではないかと心配したが、そこはこの映画を語る上で本質的なことではなかった(ていうか、全員演技が素晴らしすぎでしょ)。
本作品でイメージされていたのは、仁義なき戦いの893さんから今の893さんたちに移り変わる境目の、一昔前の893さんたちとのこと。そこで描かれたのは、今の893さんのリアルではもちろんなく、(なんだかなあ)な人生を送る私たちのリアルだった。話のオチを具体的には書かないが、頭のいい奴、ズル賢い奴が生き残って、頭の悪い奴、不器用な奴がなんだか情けない道化を演じる羽目になる。そんな徹底的にリアル=(なんだかなあ)な現実を突き付けるほうが、指を包丁で切り飛ばすことよりもよっぽど暴力的ではないだろうか。それがアウトレイジで新たに獲得された、たけしの暴力性だったのかもしれない。
とはいえ、椎名桔平の最期は凄まじい。映画の歴代死に様ランキングベスト10とまでは言いませんが、もはやアートの領域。脳裏に焼きつくとはこういうことですかと。
う”わ”って感じ。
(なんだかなあ)の表現者たけしは、映画に明確な答えを用意しない。だから日本人にウケにくく、ヨーロッパ特にフランス辺りで人気が高いというのはうなづける。べつに日本人の知能が低くてフランス人が高いとかと言いたいのではなく、国民性が真面目なので好き勝手にデタラメな解釈を叩き込んで楽しめないとか、答えを用意してもらわないと不安になるとか、なんにせよたけし映画が多くの日本人に合いにくいことは確かだと思う。
ただその、カンヌで騒がれたから日本人が興味を持ちました、でもやっぱり客入りませんでしたーなんてのも、たけしにとっては嬉しいのか悲しいのか。それこそ(なんだかなあ)なんでしょうね。
たけしはこれからも(なんだかなあ)を表現し続けると思いますが、アウトレイジに感じられる、日本人にしかわからない、日本人ならではの「何か」。それをまた観たいです。照れさえなければ簡単にできる人なんですが、その辺がなかなか定まらずぐだぐだしてしまうのがたけしの魅力でもあるのでなんともはや。
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